過去作品集○中編

『腹痛いのか!?』

『……ん……』

一つだけコクンと頷いた桜は、そのまま倒れるようにしてソファーに横たわった。

『病院だ! すぐ病院に行こう!!』

確か近くに産婦人科があった。
そこなら5分で行ける。
救急車を待つより早い!

『ちょっと痛むかもだけど、頑張れ!』

桜の背中とお尻の下に手を入れ、グッと抱き上げる。
が、ヌルリとした何かで手を滑らせ、落としそうになってしまう。

『悪い! 痛かったよな?』

持ち手を変え、ようやく安定させた。

その瞬間だった。
真っ赤に染まった自分の手に気付いたのは……

『……血?』

それは、桜の大量の血液だった。

『翔……汚れちゃうから……自分で歩くよ』

桜が笑う。

『いいから掴まっとけ』

俺は構わず桜を抱いて車まで走った。






病院に着き事情を説明すると、すぐにタンカを用意してくれた。

タンカに乗せられる桜の顔色は、家にいた時より少し悪くなっていた気がした。

『桜、すぐに診てくれるみたいだからね』

俺は冷えきった桜の手を握り、頬に当てる。

『私……赤ちゃんなんか死んじゃえばいいのにって、思っちゃったの……』

小さな声で涙ぐみながら話す桜。

『そしたら、翔と普通に……恋愛出来るって……』

馬鹿。
馬鹿だよ桜……

『桜の子は俺の子として、2人で育てよう』

世間は馬鹿だと笑うかも知れない。

でもこのお腹の子は、俺と桜を出会わせてくれた。
この子がいなかったら、一緒に暮らす事はおろか、知り合う事すらなかった。

『俺の傍で産んでくれるだけで…… 俺も父親になれるから』

本当に、大切なものなんだ。
愛せないわけがないだろう?


『嬉しい……』

桜が笑った。
それだけで堪えていた涙が溢れそうになって、俺は腕で顔を押さえた。

今まで、許されない事を沢山してきた。

平気で人を傷付けてきたし、本当の自分の子供だって殺した。

これが罰だって言う奴だっているかも知れない。

だけど、罰なら俺が一人で受けるから、
桜と赤ちゃんは、助けてください……

……神様……
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