過去作品集○中編
一時間ほどして、桜は病室に移された。
相変わらずの青白い顔で、白いベッドに横たわる。
『赤ちゃんは?』
俺は恐る恐る桜に問い掛ける。
しかし返事は返ってこなかった。
『駄目だったのか?』
やっぱり……
正直、無理だろうと思ったから泣き出しはしなかったけど、頭ん中は真っ白になった。
『生理痛ですよ』
と、俺の後ろに立っていた医者がそう言って俺の肩を撫でる。
『妊娠を期待しすぎて、生理が来なかったり、ツワリが来てしまう事。 結構あるんですよ』
『……は?』
『今、超音波で見ましたしお小水の検査(尿検査)にも異常はありませんので大丈夫ですよ』
は……
恥ずかしい……
さっきまでの感動ドラマの一部始終を見られた後だ。
余計に恥ずかしくて堪らない。
『焦らなくてもまだ若いんだから! 今から何人でも産めますよ』
って……
妊娠を望みすぎた夫婦みたいに見られてるよ……
『翔…… ごめんね?』
それまで黙っていた桜は、ようやく口を開いた。
恥ずかしそうに布団に隠れながら……
俺だって隠れてぇよ……
こうして、俺達のたった数週間の物語は終わった。
大切なものを手にし、失った。
でも、いつかまた会えるだろうと二人で笑いあったんだ。
俺達がもう少し大人になったら、
きちんと場所が整(トトノ)ったら……
俺達の所においで?
桜と、2人の赤ちゃん……