過去作品集○中編

殺風景なリビングの中、桜はコーヒーを床に置いてちょこんと座る。

ソファーは運んでしまったから、冷たいフローリングのに座る事は仕方ないんだけど。
今さらソファーは最後にするべきだったと後悔する。

『あと数日でここに入れなくなっちゃうんだねぇ』

と、寂しそうな桜に思わず笑みが漏れる。

新しいマンションは、桜の自宅から少し遠くなってしまう。
だから最近の桜は少し寂しそうだ。

『何でニヤニヤしてんの?』

そんな俺に不機嫌に言う桜。

『別に? ってか目ぇつむってよ』

『え?』

『早く』

俺に急かされながら、桜は不思議そうな顔をした後で目をつむる。

もう少し、その可愛い顔を見ていたかったけど、ピンクの箱が出番を待ってる。

『……はい。 目、開けていいよ!』

そう。
2年もの間……

『翔、これ……!?』

『うん、指輪。 今度はガラスじゃないから2年間壊れなかったよ?』

『やだ……すごい嬉しい……』

もう……
すぐ泣くんだから……

『最近、元気なかったろ?』

『だって……』

桜が元気のない理由も知ってたし、前みたいに笑ってほしいとも思ってた。

だから、この指輪が見つからなかったとしても決めてたんだ。

『新しいアパートに行ったら、また前みたいに一緒に暮らしてくれませんか?』

高校を出たらもう一度、桜と歩んでいこうって……

『嬉しい…… あ、でもまたお父さんに怒られちゃうかな』

『あー、あの親父な』

2年前、桜を自宅に返した際の話だ。

桜の親父は未成年を誘拐したと激怒し殴りかかってきた。

『また殴られるな、きっと』

『ごめんね、本当に』

おまけにまだ未成年だしな。

『まぁ、いいよ。 桜と暮らせるなら』

そう言った俺に、桜は嬉しそうな笑顔を見せた……
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