過去作品集○中編



新しいアパートに引っ越してから、もうすぐ2年になる。

桜はバイト。
俺は仕事で忙しく、夜遅くから二人で家事をするのが、最近の俺達だった。

そんなある日の事だった。

『妊娠してた』

『……へ?』

桜から突然の告白を受けたのは。

『だから、生理が来ないと思ったら妊娠してたの!』

『ま、待ってよ。 勘違いじゃなくて?』

4年前がそうだったから、どうしても疑ってしまう。

あれは結構な赤っ恥だった……

救急車を呼ばなかった事がせめてもの救いだな。
救急車が来るものなら近所の野次馬がワラワラ出てきて、もっと大事になってたはずだ。

『翔? ちゃんと聞いてる? 病院に行ったんだけど』

『あ、うん』

『まだ7週目の超初期なんだけど、ちゃんと心臓が動いてるの』

桜の言葉にポカンと口を開けて聞き入ってしまう。

すげぇ。
もう心臓なんてもんがあるんだ。

『あ、やべ。 今、財布に3万しかないや』

『え?』

『3万じゃ足りないよな? 明日にでも銀行で下ろして……』

ベッドとか服とか、玩具もいるな。
どう考えても3万は無理だ。

『ちょっと。 3万でどうしろって言うの?』

『だから……』

『堕ろせって言うの!?』

……は?
桜、何言って……

『俺はただ、3万じゃベビー用品揃えるの難しいかな?って』

『は?』

何度も財布の中身を確認するが、やっぱり3万しかない。

駄目だ駄目だ。
絶対に銀行に行かなきゃ。

10万は下ろしてこよう。

『もう! 3万で堕ろせる?って言われると思った……』

『はぁ? 産んでほしいに決まってるだろ』

『だって……そんなに早く用品揃える人いないよ』

桜は、涙を拭ってフフッと笑う。


俺達はあの日笑い合っただろう?
またいつか、必ず大切な存在をつくろうって。
何人でもつくろうってさ。


『女の子だな、絶対』

『何で? 翔は女の子が欲しいの?』

『いや、どちらも可愛いよ。 でも女の子のような気がするんだ』

4年前に見た夢……
少し先の未来の少女。

君に会えるまで、あと9ヶ月……
< 33 / 120 >

この作品をシェア

pagetop