過去作品集○中編
不安そうに眉をしかめ、後ろをついてくる少女。
何処に連れていかれるか不安なんだろうな。
それでも、家に帰るよりマシってやつか……
『ってかアンタの名前聞いてないよな?』
『あ……私は桜』
『桜ね。 俺のことは翔でいいから』
『うん、私も呼び捨てで……』
桜はたまに言葉が止まる。
何か考え事をしながら話してるからだろう。
『何を考えてんの?』
『え? 別に……』
笑ってごまかそうとしてるけど、バレバレ。
まぁ、初対面の相手に警戒しているってのもあるだろうけど。
『嘘つくと家に連絡しちゃうけど』
『やッ やめてよ!!』
桜が突然怒鳴った。
ぼそっとしか話さないから小さな声しか出ないのかと思ってたのに。
つか、ちょっとした冗談のつもりだったんだけどなぁ……
『……ごめんなさい』
桜は自分の言ったことにハッとした様に頭を下げる。
泣き出しそうな、悲しい顔だ。
『俺こそごめん。 誰にも言わないから何があったか話してみない?』
『…………うん』
小さく頷いた後、桜は話しはじめる。
初めて出来た彼氏の事を。
『本気で好きじゃなくて、体だけが目的だったんだって』
そして今、彼女のお腹の中には小さな命があることを…
『どうすんの? 産むの?』
『分からないよ…… でも堕ろすのは可哀想……』
『ってか桜はどうみても高校生だよな?』
『うん……高一なの』
そう答えた桜の目には涙が沢山たまっていた。
俺はかける言葉を見付けることが出来ずにただ桜の泣きそうな顔をずっと見ている事しか出来なかった。
桜がアイツと重なって見えたんだ……
アイツも、一人で苦しんでいるのだろうか。
『翔にだけしか教えてないんだから、絶対に内緒にしてね』
【父親になれない】
そう言ってお金を突き付けた俺を彼女はどう思っただろう。
例え育てあげる自信がなくても「産んでくれ」と言ったら、どうなったんだろう。
正解を出すのは、難しいな……