過去作品集○中編


『亜由美ちゃんそろそろ上がっていいよー』

夜の8時頃になると、店長が事務所から顔を出して言った。

『はーい。 お疲れ様です!』

いつもより早く帰れる事が嬉しくて、笑顔でお店を後にした。

駅に向かう途中、コンビニでお茶と肉まんを買った。

駅についてからのお楽しみ。

ホームの階段に座って電車を待ちながら、肉まんをかじる。
それが一日の楽しみで日課。

今日も同じように階段に座って、袋から肉まんを取り出した。

あちち!
まだ凄く熱いや。


『おぅ、今から帰るとこ。 いや、違うって! つーかさぁ……』

ってか、さっきから後ろで電話してる男。
超うるさいんだけど。

明るい茶髪にツナギの作業着。
どっから見ても派手で馬鹿そうな若者だ。

……って私はオバサンかよ!!


『あれ?』

と、急に男がこちらを向き顔を覗き込んだ。

『……え?』

この顔。
この声。

『亜由美じゃん』

この笑顔……

『翔……くん……?』

間違いない。
この人は、翔くんだ。

翔くんはニコッと無邪気な笑顔を見せ、口元に人差し指を立てた。

『悪い悪い。 また後でかけ直すから』

電話相手にそう言って、携帯を閉じる翔くん。

そして、こちらを向いてまた笑った。

『久しぶり。 元気だった?』

達也達が卒業して以来見る事のなかった、変わらない笑顔。

なんだか懐かしくて、涙が出そうになった……
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