過去作品集○中編
『夕飯食ってんの?』
翔くんは悪戯(イタズラ)に笑うと、階段を一段ずらして座った。
その微妙な距離にまで意識してしまう……
『家に帰れば夕飯あるんだけど…… 待てなくって』
恥ずかしい。
せめて女らしいサンドイッチとかにしとけばよかった。
だって、こんなふうに再開するなんて思いもしなかったから……
『俺も適当に食べちゃう事が多かったなぁ。 自炊すんの面倒でさ』
あ、そっか。
確か翔くんって、一人暮らし……
『大変だよね、一人暮らし……』
『まぁ、自分が好きでやってっから苦にはしないけど』
ずっと笑顔が消えない。
昔からいつも笑ってた。
達也みたいに大口開けて笑うタイプじゃないけど、笑顔の多い人だったなぁ……
『……電話、切っちゃって良かったの?』
『大丈夫だよ? どうせ家に帰れば勝手にいるし』
バツの悪そうに言う翔くん。
『か……彼女?』
なんかその表情は気になって、マズイと思いつつ聞いてしまった。
がっついてる女だと思われたら嫌だな。
ただの社交辞令だよ、社交辞令!
『彼女じゃなくて友達。 ってか俺、電車これじゃなくて、あっちなんだよね』
翔くんがそう言って指差したのは反対側で、すでに止まっている電車。
『電話しながらだから間違っちゃった』
翔くんらしいや。
しっかりしてて、でも少し抜けてる。
そういうとこ、好きだったなぁ……