過去作品集○中編
翔くんと再開してから数日。
毎日忙しくて、帰りは10時を超えていた。
だからか、あの駅で翔くんに会う事はなかった。
うん。
翔くんは、8時に仕事が終わるんだな。
その時間に駅に行けばきっと……
って別に会いたいわけじゃないけどさ……
『いらっしゃいませぇ』
と、恵美子さんの声でふと我に返る。
『あ、いらっしゃいませ!』
笑顔を作り、顔を上げると入ってきたのは……
『こんにちわー』
この間の可愛い女の子だった。
『もう! 早く入ってくださいよー』
何やら入口でもめてるみたい。
『こんなピンクの店、恥ずかしいっつの!』
なるほど。
彼氏が入りたがらないんだな。
確かに外装もピンクだし、レースを多く使ってる。
男の人じゃ入りにくいかも。
『何のために連れて来たと思ってるんですか!? もうマンションに入れませんよ!』
彼女が無理矢理に手を引き、ようやく店内に彼が足を踏み入れた。
『ったく…… 本当、ワガママ姫だな』
彼が言う。
その声はスゴク懐かしくて……
大好きだったあの声……
『姫は何が見たいの? 候補は決まってんだろ?』
達也……
『凄く可愛いネックレスなの。 達也さんも見て!』
腕を掴まれ渋々、カウンターの前に連れてこられる達也。
4つ年上で、派手な彼……
そうか。
達也の事だったのか。
『店員さん、この間のやつ見せてください』
彼女が笑う。
何も知らずに。
私が元カノだって、微塵も思わなかったでしょうに……
達也は見なかったふりをする?
私をどうやりすごすか困ってる?
『こんにちわ。 達也くん』
駄目だと思いながら、
悪戯心に火が着いた。