過去作品集○中編
何時から家出していたのか知らないけど、マンションについた途端に、桜はソファーで眠りこけてしまった。


『さてと』

シャワーを浴びてソファーの隅に座り、片手にビール。

明日からの生活を考えてみる。
このまま桜を置いておいていいのか。

家に帰した方がいいのか。

考えても答えが出るわけじゃないけど、考えなきゃいけない気がした。


2時を回る頃だった。
昼間、別れたはずの彼女から電話があったのは。

《赤ちゃんとも、翔ともバイバイだから》

……たった一言だけ。
彼女の声は震えていた。

必死に涙をこらえるアイツの顔が浮かんだ……







『俺、仕事行くけど桜はどうする?』

朝、リビングに顔を出す。
しかし、桜からは返事が無かった。

これからを悩んでいるのはお互い様か……

『気のすむまでココにいなよ。 ちゃんと学校に電話してからだけどね』

乗り掛かった船ってやつだ。
何処にも帰る所ないんだ。

野垂れ死にされても後味悪いし。

『ありがとう』

それに、何だか嬉しそうだしな。

『お仕事、いってらっしゃい』

昨日より少し元気な桜が、笑顔を見せて手を振る。

何となく、こちらも元気になる気がするよ。


そうだ。
仕事が早く終わったら街に行こう。

桜がしばらく困らないように、着替えを買っておこう。

『じゃあ、行ってくるよ』

幼さいながらも、綺麗な顔に似合う可愛い服を……

きっと、今よりもっと元気になる。
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