過去作品集○中編
無我夢中で働き、8時に仕事を終え、
私が真っ直ぐに向かったのは、あのマンションだった。
『翔なら、少し出掛けてますけど』
桜さんのいる、翔くんのアパート。
『大丈夫。 桜さんに会いにきたの』
翔くんがいないなら好都合。
私は、ここに決意表明に来たのだから……
『上がってください。 すぐにお茶でも……』
桜さんはニッコリと微笑むと、スリッパを床に置いた。
『すぐに済むから、大丈夫』
室内に入ったら決心が鈍る。
せっかく勢いつけて来たのに……
『私ね。 達也が好き』
自分で思ってたより、ハッキリと伝えられた。
来るまで何回か練習したけど、今が一番良い出来だ。
私って、本番に強いタイプだったんだ……
『桜さんが達也を好きでも、私は達也を諦めない』
『あ、亜由美さん……?』
『逆に、達也が桜さんを好きでも…… 私は達也が好きよ』
二年間、口に出す事のなかった想い。
言ってしまえば、こんなにも清々しい気持ちになれるのね。
『えっと…… 私は翔が好き、です』
困ったようにアタフタしながら答える桜さん。
『有り得ないけど、達也さんが好きになってくれたとしても、私は翔が……』
知ってるよ。
桜さんが翔くんを好きって事。
翔くんも、桜さんを一番に考えてるって事も……
『桜さんに言えたら、達也にも言える気がしたの』
『へ?』
『驚かしてごめんね』
どれだけ達也を想ってるか。
声に出して確かめたかった。
その相手は、桜さんがいいと想ったから……
と、その時。
『あー、びっくりした』
なんて言って翔くんが帰ってきた。
『いきなりだから、桜と達也の関係を誤解してんのかと思った』
って事は、全部聞かれてたのね……
まぁ、最初は誤解してたけどさぁ。
『例え達也が桜を好きでも、その逆でも、俺がちゃんと繋ぎ止めておくよ』
羨ましいくらい真っ直ぐな言葉に、桜さんは照れたように笑う。
全く逆だけど、こんな風に、達也に伝えられたらいいな……