過去作品集○中編
伝えたい事は纏まった。
後は達也に会うだけ。

連絡先が変わってない事を祈るだけ……

ま、変わってても桜さんに聞けばいいんだけどね……


『ただいまー』

告白は明日に決め、とりあえず自宅に帰る。

服とかメイクとか……
少しでも可愛くしたいんだもの。

『あれ?』

玄関に男物の靴……
うちにはお父さんがいない。

お父さんが出ていってから男物の靴が並ぶのは初めての事だ。

嫌だなぁ……
お母さんの彼氏とかだったらどうしよう。

お父さんになる人とか言って紹介されたらどうしよう。

恐る恐るリビングを覗くと、お母さんより遥か年下の男が……
って、達也じゃん!!

驚きで声にならない。
どうして達也が……


『うふふ、じゃあ達也くんは、亜由美と仲直りしたいのね』

お母さんてば、私の話なんかして……

『仲直りっていうか…… ただ謝りたくて』

『それを仲直りって言うのよ』

なんか……
出ていきづらい。

こういう場合、さりげなく登場するって難しくない!?

『ねぇ、達也くん。 どうして亜由美と別れちゃったの?』

お母さんは、達也を試すような悪戯な目をして問い掛ける。

『どうしてって……』

ほら、達也も困ってんじゃん。

『ふふ、理由は亜由美から聞いてるんだけどね!』

って、そうじゃん!
私、お母さんに話した事あるもの。

もしかして、達也の気持ちを知ろうとしてるの?

『おばさんは、聞いて怒らないんですか?』

と、達也が言う。
確かめるように、ゆっくりと……

『最初は怒れたわよ? でも私の旦那もそうだったから』

『え?』

『亜由美の父親は、とても寂しい人だったわ…… 私の愛し方に疑問を抱いて、最後には出ていってしまったの』

そんな話、私知らない。
お父さんが出ていった理由なんて……

『愛なんて目に見えないんですもの。 表し方なんて、皆違うはずなのにね……』

私には語られる事のなかった、父の話。
達也を見て思い出してしまったのか、お母さんは少しずつ、話していった……
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