過去作品集○中編
全て、とは言わないが、
母は達也に家族の事を話した。
幼い頃にいなくなった父親の話を聞くのは初めてで、夢中で盗み聞きをした。
聞けば聞くほど、達也に似ている。
考え方。
育った環境。
そして、臆病な所も……
『俺も、結婚なんて向いてないかな』
と突然、達也が言った。
『親父は女遊びが酷い人で、母さんは、それが嫌で出ていった』
過去に翔くんに聞いた。
だけど、本人の口からは妙にリアルだ。
それはもう、鳥肌が立つくらい……
『俺も、きっと親父と同じだ。 誰かが傍にいてくれなきゃ、不安で仕方ない』
寂しそうで辛そうで、悔しそうで……
こんな達也は、見てられない。
『亜由美が他の男に盗られると思ったら悔しくて…… 一人になるのが恐くて』
でも駄目だ。
『だから、亜由美に捨てられる前に、次を探した』
ここで目を反らしたら駄目。
達也を全て知って、その上で愛したい。
『……亜由美には言わないでください』
『そうね。 でも達也くんの事を、本当に大切な人は沢山いるから……探してみなさい?』
達也も負けちゃ駄目。
達也には沢山ある。
いつだって周りには人がいたもの。
今だって、翔くんや桜さん。
私だって、達也が大切だよ……
『俺、今日は帰ります。 ごちそうさまでした』
達也は、そう言って頭を下げると、玄関に向かった。
真っ直ぐ、前を向いて歩く。
その姿に、目が離せなかった……