過去作品集○中編


どうして、こうなったのか……

『いらっしゃいましたー』

閉店の一時間前、達也がお店に現れた。

『終わるまで待ってていい?』

昔と変わらない笑顔を私に向ける。

大切な事に気付いたんだろうか……
昨日より晴れた顔をしている。

『あとちょっとで終わるから』

本当はすぐに終わらないけど、今逃がしたら、終わっちゃうような気がして……


『二時間も待ったんすけど』

結果、二時間も待たせてしまった。

『ごめんごめん。 いいのあった?』

閉店まで店内をウロウロしてた達也。
きっと欲しいものが見つかっただろうと、聞いてみた。

『見てねぇっつの!』

怒らせちゃったけどね……

『俺、すっげえ不振人物じゃなかった?』

『あはは、そんなことないって!』

まぁ……可笑しくはあったかな。

『それで? 何か話があるんじゃないの?』

『うん。 この間の事、謝ろうと思って』

やけにアッサリと言うから拍子抜け。

『別に気にしてないから大丈夫だよ』

もっと意地っ張りで素直じゃない人だったのに……
でも、そんな達也も悪くない。

もっと、もっと好きになる。

『達也』

『うん?』

『私は、達也を一人にしないよ』

達也は、驚いたように目を見開いた。

嘘みたいに、素直な言葉が浮かぶ。
こんなにも穏やかな気持ちで言える。

『私は、達也の事が好きだよ』

そうだ。
二年前のあの日も、こう言えばよかった。

達也に思ったままを伝えればよかったんだ。

『正直、達也の抱えてる不安を無くす自信なんて無いけど』

『うん……』

『また要らないって言われたらって思うと恐いけど…… でもそれ以上に、達也の傍にいたいんだよ』

言い切ってしまった。

しつこい女だと思われたかも。
ウザイって言われるかも。

でも、もう見失わない。

『私は、二年前も今も、変わらず達也を想ってる』

私の大切なものは、達也なんだ……
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