過去作品集○中編
『たっちゃん! 手痛いよ!』
賑やかな町並み。
達也は痛いぐらいに私の手を握り、道の真ん中を歩いた。
『だって、離したらいなくなりそうだから』
馬鹿ね……
『ずっと傍にいるって言ったでしょう?』
さっき約束したばかりじゃない。
『それでも俺は、目に見える安心が欲しいんだ』
なんて言っちゃって……
甘えたいんだよね?
『あ…… あれ達也のお父さんじゃない?』
と、道の向こうに見慣れた人物を発見する。
やっぱり。
この間のケバケバしい女の人も一緒だ。
また見つかったら何か言われる。
道を変えよう。
そう思い、達也の手を引いて、方向を変える。
その瞬間だった。
『父さん!!』
達也の大きな声が、道行く人達の足を止めたのは……
『父さん! 俺、そんなケバい人が母さんなんて嫌だからねー!』
開いた口が塞がらない。
私も、達也のお父さんも……
まさかこんな街中で、言われるなんて思いもしなかっただろう。
『亜由美、逃げるぞ!!』
『え、えぇ!?』
戸惑う間もなく、腕を引っ張っられ、無理矢理に走らされる。
でも待ってよ!
どうせ家に帰ったら怒られるんじゃないの!?
『あー、すっきりした』
そんな私の心配をよそに、達也は晴れた笑顔を見せる。
ま、いっか……
『ただいまー』
そのまま手を引かれ、連れてこられたのは……
『おかえりってお前らの家じゃねえから。 人数増やすなよ……』
やっぱり翔くんの家。
翔くんは、迷惑そうにしつつも、私達にスリッパを出した。
『桜、ただいまー』
続いて、リビングで寝転んでいる桜さん。
『あ、おかえりなさい達也さん』
桜さんは飛び起きて、いつもの笑顔を見せる。
『亜由美さんも、おかえりなさい』
『あは……ただいま、桜さん』
達也は一人じゃない。
こんなにも沢山の人がいるんだよ?
『達也ー、今日も飯食ってくだろ? 何食いたい?』
ほら。
大切なものは、ここにある……