過去作品集○中編
シトシトと、冷たい雨が降った日だった。
『何、やってんの?』
最近、連絡があまり取れなくなっていた彼氏の部屋に訪れた。
『それ、誰なの?』
ベッドの中には知らない女。
その横で、けだるそうに私を見る誠(マコト)。
この部屋の住人であり、私の彼氏だ。
『最低!!』
気づいたら、誠の顔をひっ叩いて部屋を飛び出していた。
道路にはピンクの桜の花びらが散っていて、まるで私の心を表してるみたい。
「この煙草よくねぇ?」
「夏乃が煙草嫌いだから変えたんだよ」
「バニラの匂いするだろ?」
それは、誠の口癖だった。
そんな優しい誠が、大好きだった。
バニラの香りがすれば誠を思い出せたのに……
今はもう、裏切りの匂いでしかない。