過去作品集○中編

放課後。
終業のチャイムが鳴り、皆「待ってましたぁ」と言わんばかりに教室を飛び出した。

……私以外の人は。

一つ年上の誠とは、この高校で出会った。
今、教室を出ていけば、また彼と顔を合わせることになる。

だから最近は、こうして帰りの時間をずらして帰るようにしてるんだ。

窓の外には、騒ぎながら校門をくぐっていく生徒達。

その中には誠も……

『最低……』

誠はついこの間、私と別れたばかりだというのに、満面の笑みで歩いている。
大して好きじゃなかったってことね。



『あー、まじ寒ぃ』

と突然、教室のドアが開いて男の子が入ってきた。

『吉見!? あんた、それ』

入ってきたのは吉見だった。
しかも何故か、全身びしょ濡れ。

『帰ろうとしたら友達に水遊びに誘われて』

『ガキか、あんたは』

私の台詞を聞いて苦笑する吉見。
ってか、水がポタポタ落ちて床が……

『ほら、早く拭きなよ』

ポケットからハンドタオルを出して、吉見に差し出す。

『ありがとう。 さすが女の子だね』

笑う横顔。
その声。

どこかって言えないけど、
どこか誠と似てる。

『ねぇ、吉見ってお兄ちゃんがいる?』

『いないよ。 何で?』

当たり前の答えだ。
だって誠の苗字は【吉見】じゃないもの。

『別に深い意味はなくて…… ただ吉見に似た人がいたから』

雰囲気とか、背格好とか、
そういう何気ない所が似てる。
顔の感じだって、そっくりじゃないけど、似てる部分もある。

『俺に似た人って誰? 夏乃の彼氏?』

と、急に真剣になるから少し驚いた。
いつもおちゃらけてるから、こんな顔出来ないんじゃないかって思ってたから……

『彼氏だった人。 フラれちゃったけどね』

『そっか。 そいつ、見る目ないね』

見る目ないって……
すぐそうやって冗談言うんだから。

でも、今回の冗談は、
ちょっと嬉しかったかな……
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