過去作品集○中編

『おっはよー』

次の日になると、隣の席は賑やかさを取り戻した。

『夏乃も、おはよう』

昨日休んでいたとは思えないくらい元気な吉見。

『昨日、途中までプリント持ってきてくれたんだって? ありがとねー』

何だか少しホッとした。

うるさい奴だと思ってたけど、
いざいないと、静かすぎて調子狂うよ。

バニラの香りも、さほど気にならないし。
まぁ、誠と仲直りしたせいもあるかな?

『夏乃、今日は機嫌いいね?』
吉見の目から見てもそう見えるみたいだし。

『実は、前に言ってた彼氏と仲直りしたの』

『彼氏と?』

『うん。 加藤誠先輩ってわかる?』

まだよりを戻すって決めたわけじゃないけど、誠が謝ってくれただけで嬉しい。

『でね、こんな風に言ったの』
……あれ?

『吉見? 聞いてる?』

俯いたまま、返事一つしない。

なんだよ。
せっかく会話しようと思ってんのに。

『夏乃』

と突然、名前を呼ばれ、視線を合わす。

『そいつとは付き合わない方がいい』

やっと口を開いた吉見は、すごく冷たい目をしていた。

冷たくて、寂しそうで……
言葉には表せられない、そんな表情。

『どうして付き合わない方がいいの?』

恐る恐る聞くと、吉見は表情を変えずに続けた。

『あいつは悪い噂が多すぎるよ。 どうせまた浮気される』

……言い返せなかった。

何度も聞いてきた誠の噂。
それでも誠が好きで、全部聞かないふりをしてきた。

『なにそれ。 ちょっと冷たすぎるんじゃない?』

頑張ってとか、
良かったな、とか。

適当でいいから、何か言葉が欲しかったのに。

『冷たいと思ってんなら、勝手に思ってなよ』

なんだよ、なんだよ。
そんな風に言わなくてもいいざゃん!

『勝手にするからいいよーだ』

もう口きいてやんないんだから。
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