過去作品集○中編

『今日は用事あるから、先に帰っててね』

放課後になって千里は、私に手を合わせて言った。

特に約束してるわけじゃないけど、帰りは千里と帰るのが当たり前になってたから、必然的に一人で帰る事になる。

ま、いいけどね……


そういや放課後、吉見に傘を返すって言ってたっけ。
って事は、吉見と帰るのかな?

千里を盗られたような、変な気になりながら、トボトボと昇降口に向かう


『きゃっ!?』

その途中、何かに突然ぶつかってしまった。
こんな所に壁なんてあったっけ!?

『馬鹿。 俯いて歩いてっと壁に当たるぞ?』

『……へ?』

この声は……

『誠!』

『壁だと思った?』

苦笑しながら、私の隣に移動する誠。
ふわりと甘い香りがする。

『まだバニラの煙草なんだね』

『あ? だって夏乃が煙草嫌いじゃん』

久しぶりに聞くなぁ。
誠の口癖……

隣で揺れる大きな手も、
高い所から聞こえる低い声も、
裏切られても、まだ愛しいと思ってしまう。

『夏乃? 泣いてんの?』

嫌だ。
何で涙なんか……

『もう……浮気しない?』

『うん、しないよ』

『絶対?』

『絶対』

恐る恐る顔を上げると、眉間にシワを寄せ、私を見つめる誠が見えた。

もう駄目だ。
忘れられない。

『まだ、誠が好き……』

誠を嫌いになれないよ……
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