過去作品集○中編

『夏乃、まだ顔が真っ赤だよ!』

『もう。 本当に吉見の冗談って最低』

『あはは!』

千里の気持ちに気付いちゃったから、
今の私に、吉見の冗談はきつい。

千里が本当に吉見が好きなら、
応援したいと思ってるから。






『わ、雨降ってきたよ』

5限目は体育。
体育館への移動中にポツポツと降り出した雨に千里は不快そうな顔を見せる。

そういや男子はグラウンドで野球だったっけ。
確か雨天の場合は、体育館で……



『吉見く~ん! 頑張ってぇ!』

四方から飛び交う黄色い声。

ほら、やっぱりバスケだ。

本当に、吉見のどこがいいのかしら?

『吉見、超カッコイくない!?』

隣の千里まで、はしゃぐ始末だ。

騒がれてる当の本人は、黄色い声に見向きもせず、オレンジのボールを追っていた。

真っ直ぐに獲物だけを見る目は鋭く、少しだけ皆の気持ちがわかる気もする。

……ほんの少しだけね?

と、その時。

『夏ぁ乃! あんま熱い視線送んなよ』

吉見は私を指差して、そう言ったのだ。

『……見てないっての……』

呆れた。
せっかく見直してやってたねにさ。

『夏乃、愛されてんじゃん』

なんて、からかってくる千里。

『冗談やめてよ』

『冗談じゃないってば』

冗談じゃないなら何だよ。
こんな皆の前で「熱い視線」とか勘弁してほしいよ。

『だって、これだけ女の子がいるのに、試合しながら夏乃を見つけるって凄くない?』

『え?』

『迷わずに指差したよね。 夏乃の事!』

言われてみると、キョロキョロした様子もなかった。

迷いなく、真っ直ぐに指された。

愛されてるなんて、想像もつかないけど、
好意は持ってくれてるのかな?
< 83 / 120 >

この作品をシェア

pagetop