過去作品集○中編
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from 誠
sub 無題
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今日、一緒に帰る約束
してたけど
俺、急用できたから先
に帰るわ。
-END-
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誠からの突然のメールだった。
さきほど「誠と帰るから」と千里の誘いを断ったばかりだというのに。
もっと早く言えよ!
結局、今日も一人で帰るはめになってしまったじゃないか。
学校から駅にのびる真っ直ぐな道の途中に、古ぼけた小さな自販機がある。
学校帰り、いつも誠はここで煙草を買っていた。
いつ先生に見つかるか、ハラハラしながら誠を見てたのを思い出す。
『あ……』
ちっぽけな自販機の前に、珍しく人が立っている。
『吉見?』
『え? 夏乃?』
吉見は、「何で一人で?」と聞きたそうな顔をしていた。
『吉見こそ、こんな所で何してんの?』
『俺、まだ何も言ってないんですけど』
反則技とも思えるような笑顔で、私の頭に手を置く吉見。
上に置かれた手には、水色の小さな箱が……
『それ、バニラの匂いがする煙草だよね?』
『うん。 詳しいね』
そりゃ一目見てわかるよ。
誠と同じ煙草だから……
『吉見の甘い匂いって香水じゃなかったんだね』
『そりゃ学校じゃ、香水つけないだろ』
『そりゃそうか』
いっその事、香水でもつけてくれたほうが良かった。
誠と同じ部分が多くて、二人を重ねてしまいそうになる。
『さて、夏乃の家まで行こっか』
吉見は煙草をポケットにしまい、腕を高く上げて言った。
『え? 何で家に?』
『一人じゃ危ないだろ? 送ってくよ』
……意外。
スタスタ帰っちゃうような奴だと思ってた。
少し吉見のこと誤解してたみたいだ。
『はい。 俺と手ぇ繋ぎたい人ー』
吉見はそう言って、私に右手を差し出した。
前言撤回。
『そんな馬鹿はいませーん』
せっかく見直してやったってのにさ……