TRUMP
「気をつけようねぇ、海斗くん。あそこのドアは。若いお嬢さんも働いてるんだから」


「……はい」


「じゃ、仕事に戻って。藍ちゃん、ちょっと」


海斗さんは、智也さんの所へ行き、あたしは響さんに促されて、皆が休憩する奥の部屋へ入った。


響さんは、初めて会った日のように、紅茶を出してくれた。


「ごめんね、こんな店で。でも、海斗を含めてラピスラズリなんだ」


と言った。


「辞めたくなったりなんて、して、ないよね?」


響さんの言葉に、紅茶を飲む手が止まった。


「えっとぉ」


「辞めないよね?ね?」


響さんが、捨てられた子犬の顔をしていた。



ずるいよ……。



そんな顔されたら……。



あたし……。



断ることなんて、出来ないじゃん。



「辞めませんよ」


「ホント?」


「はい。時給いいし。さっき蘭さんに、パワーストーンの魅力っていうか、少し話しした時、おもしろいなって、思えたから。私も、皆と同じように、パワーストーンの説明とか出来たら、カッコイイかな?とか、思えたから」


「藍ちゃん!」


響さんは、歓喜のあまり、あたしに抱きついた。



ドキドキドキドキドキドキ!!!!



あわわわわわ。



「ひ、響さぁぁぁん」


響さんの感情豊かな態度に、毎回ドキドキさせられた。


あたしは、抱きしめられ、めまいを起しそうになる。


響さんは、あたしから離れると、あたしの肩に手を置くと、ニッコリ笑って。


「好きだよ、藍ちゃん」


と言った。



1秒。



2秒。



3秒。



4秒。



5秒。



…………。



…………。



す、好き……?



え?



コクハク……?



「藍ちゃん?」


響さんに、見つめられ、あたしは。


「わ、わた、わた、ひび……響さ……」


言い終わらないうちに、響さんは、またあたしを抱きしめた。





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