TRUMP
あたしは智也さんを見た。


智也さんは、あたしを見て二人を見て、何があったのか察したようだった。


そして倒れている海斗さんに。


「海斗仕事行け。響も、フロアーにまだ客がいる出て来い」


というと、お店へ戻ってしまった。


海斗さんは、起き上がると、無言で部屋を出て行った。


「ごめん。まさか海斗がこんな……」


響さんは、あたしの姿をなるべく見ないように謝った。


「だ、大丈夫です。お、驚いたけど、いつも兄との練習の時……あ、いや、あの……」


海斗さんにブラジャー姿見られた事より、響さんに、見られた事の方がよっぽどショックだった。


「藍ちゃん……」


さっきは藍って呼び捨てだったのに……。


響さんは、ゆっくり近づくと、優しく抱きしめてくれた。



ドキン。



「響さん……」



ドキン。



「響さん……」



あたし……。



「ホントにごめん。海斗とはちゃんと話しするから……今日は、帰ってもかまわないよ」


悔しそうな寂しそうな表情を見せると、フロアーへ行ってしまった。



ズキン!



あたしは、響さんを見送ると、散らばったボタンを探した。


響さんの表情が、頭から離れなかった。


目についたボタンを拾うと、シャツに着替え、エプロンをつけネームバッチを取りだし、フロアーへ出た。


あたしがフロアーへ出ないと、皆が休憩できなかった。


フロアーへ出て響さんを見ると、さっきの出来事がなかったかのように、にこやかに接客していた。


心臓がドキドキした。


あたしがフロアーへ入ったと同時に、智也さんが、休憩室へ入って行った。


その5分後には、涼子さんもいなくなった。


最近涼子さんは、掛かってくる内線電話を取り、少し話すといなくなっている。


蘭さんも接客していたが、接客後休憩しに行ってしまった。


いつもの暇な時間がきた。





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