TRUMP
「わかった、蘭、お客様をご案内しろ」


「はい」


蘭と呼ばれた店員さんは、一礼すると、人込みを掻き分け、どこかへ行ってしまった。



うわぁ。



今の人も、カッコイイ〜。



明日から楽しみ〜。



皆に、自慢しちゃお〜!



「藍ちゃん、いい?」


響さんが、話しかけてきた。


「はい?」


「アルバイトなんだけど」



え?



もしかして、やっぱりお断りとか?



「アルバイト、今からでも、いいかな?」



え、今?



予定ないから、いいけど……。



何にもわかんないのに、まさかこの人数を、1人で見るの?



まさか、ねぇ……。



「今からは、無理、かな?」


響さんの、少し困った顔を見て、また心臓が高鳴った。


「い、いいですけど。でも、この人数を……」


「ありがとう!助かるよ」


響さんの表情が、華やいだかと思ったら、突然あたしを抱きしめた。


あたしは、一瞬にして、顔が赤くなり、身体が固まってしまった。


そして響さんは、あたしから離れると。


「海斗、エプロン出してくれ」


と銀髪の店員に言い。


「わからない事があったら、内線1番を押せば出るから、遠慮なくかけてきてね」


というと、先程面接した場所へ行ってしまった。


「ほら、これ」


あたしの頭に、突然物がぶつかった。



ちよっ!



文句を言いたかったが、我慢した。


あたしは、入ったばかりの、アルバイトだ。


ぶつかってきた物を掴み広げると、ブラックデニムのエプロンだった。



響さんも、智也さんも、他の人もスーツ姿なのに、あたしだけエプロンって……。



これがいわゆる、アルバイトと社員の違いってことですか?



そんなことを思いながら、エプロンを身につけた。


「じゃあな」


海斗と呼ばれた店員も、響さんと同じく、中へ入って行こうとした。




< 5 / 41 >

この作品をシェア

pagetop