幼なじみは俺様王子。
……ううん、違う。
この香りは楓じゃない。
だって、抱き締められた時、ふわっと爽やかなシトラスの香りがしたから。
この香り、知ってる。
前にどこかで……
もしかして……
「びっくりした?」
………そ、爽?
この香り。
低いトーンの色っぽい声。
あたしの頭の中で全てが一致した。
「ぎゃあああああ!」
な、ななな、何てことしてんのよぉおお!
こんな人がいる中で…
………ん?
あぁあああああ!
学校のど真ん中で、あたしは爽に抱き締められている。
つまり……
「あの女、爽様と何やってんのよ!」
「なんて淫らなことするのっ!」
「最悪だわ!」
こういうことになる訳です……。
はぁあああああ。
あたし、旅行前からこんなに憂鬱になってどうするのよ……。
「ぷっ。もっと可愛らしい声だせよな」
他の生徒が騒いでいるのなんて気にしていない様子の爽は、あたしを抱き締めたまま話しかける。