幼なじみは俺様王子。




とめどなく溢れる涙は、止まることを知らない。


――ギュッ


えっ……


瞬間、時が止まったような気がした。


爽があたしを抱き締めたから。


今までも何回かされたけど…どこか違った。


爽の温もりは、とても温かく感じて。


その温もりに甘えている自分に、胸がギュッと締め付けられた。


あたしには、楓がいるのに……


「……泣くな、女は涙なんて流すもんじゃねぇよ」


爽……


「俺のせい、だろ?」


……ううん。


爽のせいじゃない。


……あたしのせいだよ。


あたしがはっきりしないから、こんなことになっちゃったんだ……。


「……悔しかったんだよ。 アイツに負けんのが」


「……えっ…」


“アイツに負ける”

その意味が、あたしにはよくわからなかった。


でも、その言葉にはあたしの知らないことがたくさん込められている。


……そんな気がした。


「ごめんな…穂香」


なんて言うべきかわからなくて、ただ首を横に振った。




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