幼なじみは俺様王子。
泣きそうな顔で微笑み、楓は背を向けて歩き出す。
……楓は最後の最後まで意地悪だった。
キスをして、そんな顔で微笑んで。
またあたしを苦しくさせる。
「まっ、待って……っ!」
精一杯叫んだけれど、楓は振り向いてはくれなかった。
「うっ…っ…」
涙が止まらない。
追いかければ楓に届くはずなのに。
すがりついて止められるはずなのに。
もう二度と、触れられない気がした。
ザーザーと音をたてて降り続く雨。
その虚しい音だけが、人気のない北校舎に響いていた。
――どのくらい経ったのだろう。
気づいた時には雨はすっかり止んでいて、オレンジ色の夕日が顔を出していた。
ふと振り返るとそこには、古びたアスファルトに寄りかかる爽の姿があった。
顔を覆う髪からは、雨の雫がポタポタ落ちている。
あたしの視線に気づいたのか、爽は顔をゆっくりと上げた。
「……そ…爽」
爽の顔が見てられなくなって、あたしは思わず顔を伏せた。
「なんでだよ……」