幼なじみは俺様王子。
爽の掠れた声に再び顔を上げた。
あたしを見つめて、爽はギュッと唇を噛み締めると
「なんで楓なんだよ……っ!」
そう言って、アスファルトを思いっきり蹴っ飛ばした。
体がビクッと震える。
「楓はお前を傷つけた、最低なヤツだ……」
爽の漆黒の瞳があたしを見据える。
あたしは凍りついたようにその場に立ち尽くして、ただ爽を見つめていた。
「……俺はアイツを許さねぇよ」
濡れた黒髪をうざったそうにかき上げる。
耳を塞いでしまいたい。
あたしは…ズルい女だ。
「なんでこんなことになったのかもわかんねぇ……」
爽の言うことは最もだった。
あたしにもわからない。
……どうして突然、別れを言い出したのか。
楓の心情が読めなかった。
「俺にしとけよ……」
小さな声でそう呟くと、爽はあたしを抱き寄せた。
爽のシトラスの香りに包まれる。
「俺はアイツみてぇに穂香を傷つけたりしねぇよ……」
だけど、あたしの心はもう揺らいだりしなかった。