幼なじみは俺様王子。




そんな時、あたしの頭の中に浮かんだのは“彼”の姿だった。


意地悪な笑顔。


優しい微笑み。


あたしを見つめるブラウンの瞳。


あたしの鼻をくすぐる甘い香り。


あたしをいつも包んでくれた心地よい温もり。


もうすでに、あたしの答えは決まっている。


もう迷ったりしない。


あたしが好きなのは、大好きなのは


甘いキスをくれる、意地悪だけど、本当は優しい王子様……。


あの時言えばよかった。


「あたしは楓が好き」だって。


言っていたら、楓は振り向いてくれたのかな……?


いつもみたいに笑ってくれたのかな……?


そう思うと、悔しくて切なくて、やり切れなくて涙が溢れた。


あたしの中に、絶望と後悔だけが残る。


「……爽、ごめん…」


あたしがそう呟くと、爽は体を離してあたしを見つめた。


「あたし…楓が、好きなの……っ」


爽の顔をゆっくりと見上げる。


その表情は、険しくて怒っているように見えたけど、どこか切なそうで……


胸がギュッと締めつけられた。





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