幼なじみは俺様王子。
――瞬間、時が止まった。
視界に入る全てのものがセピア色に染まった。
……楓が愛チャンを抱き締めたから。
「きゃあああああ!」
女の子達は黄色い声をあげ、目を見開いている。
「王子カッコいいぃぃ」
「あたしも抱き締められたぁい」
女の子のそんな言葉も、あたしには虚しく思えた。
「ちょっと、何やってるのよっ!」
あーちゃんがバンッと机を叩いて、廊下に向かおうとする。
だけど、あたしはあーちゃんの手を力無く握りしめて、あーちゃんを止めた。
あーちゃんは凄い剣幕で振り返り、あたしに言う。
「穂香、どうしたのよ!?」
いつもの冷静なあーちゃんではない。
あたしのために、そこまで怒ってくれるなんて嬉しい。
だけど……
「もう、いい……の」
グッと涙をこらえて呟いた。
なるべく下を向かないように。
下を向いたら涙がこぼれ落ちちゃいそうだっただから……。
「……………」
あーちゃんは、あまり納得しない様子だったけど、とりあえず席についてくれた。