ココロ
距離にしておよそ数百メートル、時間にしてほぼ2、3分といった所だろうか―
私とこの人が、一緒に歩いたのは。
特に何かを話すでもなく、一歩先を歩く彼の後ろから私がトボトボと着いて歩行っただけ。
本当にそれだけですぐに目的のバス停へとついてしまえば彼はまず視線を此方へ向け、またコテンと可愛らしく首をかしげた。
「バスすぐ来んの?」
「はい」
「そ。残念」
「へ?」
「ん?いやあ…短いデートだったなーって、さ」
にこにこと人の良い笑みを浮かべながら彼はそんな台詞を吐く、が残念ながら私はイケメンなら裕也で見慣れてる。
おかげで慣れてしまえばこの人変な人だなあぐらいにしか思わなくなっていた。
私は何を言うでもなく笑って誤魔化しておいた。
するとそのちょうど良いタイミングで向こうから私の乗るバスが走ってくるのが見えた。
「私、あれに乗るので」
「そっか」
「ありがとうございました」
「これからは1人でフラフラしたら駄目だぞー」
ヒラヒラと手を振るその人に、私はもう一度頭を下げる。
変な人だけど一応私を心配して送ってくれた…らしい、たぶん。
黒鷹生のくせに…ホント、変わった人だ。
「あ」
「んー?」
バスが止まって、扉が開いたので中へ乗り込む。
…が、私は一瞬足を止めてクルリと身体の向きを変えた。
そこにはまだ彼が立っていた。
「あの、」
「何?」
「名前教えてください」
黒鷹生の、良い人。
私の中でもこの人の位置づけ。
この道が帰り道だと言うのだからもしかしたらまた会うかもしれないし…会わないかもしれない。
どちらにしても優しくしてもらった記念だ、とそんな思いもあり一応名前だけ聞いていおきたかったのだ。
すると彼は少しだけ驚いた顔をして…そして、またヘラリと笑った。