ココロ
「ハチ」
「え…?」
「ハチで、良いよ」
…ハチ?
「…はは!犬みたい!」
「よく言われる」
私が思わず笑ってしまうと、彼も何だか嬉しそうに笑った。
笑った顔はちょっと可愛かった。
こうして扉は閉まり、バスは発車した。
最後に窓から見えたハチさんは手を振りながら何かボソボソと口を動かしていたように見えたけど、当然のことながら何て言ってるかは解らなかった。
『またね、西崎ココロちゃん』
―私は知らなかった。
最後にそう呟いたハチさんが、バスが見えなくなったと同時にまわれ右をして今来た道を戻って行ってしまったということを。