君の詩が色褪せても
「…もっと、大事なこと」
愛里子の声が波の音に消されそうになる。
「面倒な話はマジ勘弁だからな」
いつもの口調に戻り、立ち上がる日和。
「愛里子が記憶を取り戻したら…私はきっと私じゃなくなるの…」
そう…
私は…
多分この世界から消えてしまうの……―
服に付いた芝を払う日和。
彼は気付いていなかった。
愛里子が自分を"私"と呼んだことに…。
「…腹減ったな」
あくびをしながら話し掛ける日和の発言で、愛里子は我に返る。
「日和、さっきモーニングしたじゃん」
「うるせーな、ゆで卵とバターロール1個のどこがモーニングなんだよ」
日和はサングラスをかけて歩きだした。
「待って」
追い掛ける愛里子。
「ランチして帰るか…」
日和はゆっくりと振り返った。
「うん!!」
満面の笑みで日和の腕にしがみ付く愛里子。
愛里子のテンションのように太陽は高く高く上っていた。
「先生、お客様です」