君の詩が色褪せても
原宿の駅の片隅で弥生は電話をしていた。
「ごめんなさい、急用が出来ちゃって…」
電話の相手は事務所のアシスタント。
謝罪して、仕事の指示をする。
「そう、お願いします。また連絡するね」
電話を切って、空を見上げる弥生。
雨…―
下界に零れた魔法の酒か…―
私は…
酒なんかじゃない気がする…―
雨は…
きっと涙だよ…―
愛里子ちゃん…
今頃、泣いてるのかな…―
「…なんで、私は彼女が心配なんだろう?」
大きなひとりごと。
弥生はビニール傘を開いた。
偽善者ぶりたいだけなのかも…―
だったら…最悪―
同じ頃、日和も雨の降る空を見上げていた。
自分に疑問を抱きながら、今朝とは違うペースでゆっくり海沿いの公園を歩く日和。
いつにも増して雨の平日は誰もいない公園。
日和は愛里子の姿はおろか、目の前にある自分自身の気持ちまで見つけられずにいた。
顔を隠す為のサングラスも深く被る帽子も、お気に入りのママチャリも今の日和には必要無かった。