君の詩が色褪せても
ふと、海に目を向ける。
雨粒が深い海に溶け込んで消えていく。
雨か……―
海の果て。
遥か彼方を見つめる日和。
ドキッと胸が苦しくなる。
ある日のことが、日和の頭を駆け巡り出していた。
人の少ない原宿。
ビニール傘を片手にした弥生は、更に人の少ない路地裏に入っていく。
古い建物がアートのように並ぶ街。
弥生のお気に入りの場所。
愛里子と手を繋いで歩いた道。
しかし、いつの間にか弥生はいつもは来ない場所に迷い込んでいた。
でも、何故か感じる懐かしさ。
住宅街の角にある不思議な形をした店。
弥生は窓ガラスに映る自分を見て妙な気分になった。
ガラスの奥に見えるのはコンクリートの壁だけになった店内。
残された棚も空っぽである。
そんな店の奥から、ひとりの女性が現われた。
窓から覗き込んでいる弥生と目が合い、優しく微笑む女性。
年齢は40前位、美人でスタイルもいい女性。
黒髪をアップにして、ゴージャスでも品のあるワンピースを身につけていた。
そして、弥生を手招きし出した。