君の詩が色褪せても
カランコロン…


ベルを鳴らして店に入る弥生。

入り口にビニール傘を立て掛けた。




「いらっしゃいませ」

女性が笑う。




甘い香がした。

壁はコンクリートになっているのに、店の香が残っている。



その香に懐かしさを感じる弥生。




「あっ…あの…」

弥生は言葉に困った。




「見たことない顔ね。うちに来るのは初めて?」

女性は優しい口調で尋ねる。



「…分かりません……前に来たのかも」


「そうよね。こんな何もない所を見ても分からないわよね。私も慣れないもの」


「失礼ですが…お引っ越しですか?」



フフフ…と弥生の質問に笑う女性。



「売るのよ、この店」


「そっ…そうなんですか」


「こんな路地裏だし、マニアックなモノしか売らない店だし、今は大きなショッピングモールに似た趣旨の店が沢山あるから」



「はぁ…」



「歴史は長かったんだけどね」




「どんなモノを売られていたんですか?」


「気になる?」



「はい」



女性は窓の方へ歩いていく。

弥生も彼女に付いていく。



「私の気に入ったもの」




彼女は自信満々にそう言った。
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