君の詩が色褪せても
雨の公園。
日和はビニール傘を片手に海を見ていた。
記憶の片隅に隠れていた昔話が鮮明に蘇ってくる。
日和は以前、愛里子という名をこの場所で聞いたことがあったのだ。
妖精…ー
愛里子…ー
地味で一見近寄りがたい空気を漂わせていた少女。
彼女は漫画家志望だと言っていた。
「…弥生」
まさに愛里子の生みの親…ー
こんなこと…
あっていいのか?…
唾を飲み込み、瞳を閉じる日和。
意識が過去にさかのぼっていった。
『…あっ、その冊子!』
ボーっと海を眺めていた日和に少女が声を掛けてきた。
『…?』
日和が振り向くと少女は急に顔を赤らめて、恥ずかしそうに手で口をふさいでいた。
『何か?』
きょとんとする日和。
『その…、あなたが持ってる冊子…』
『これが何か?』
『…わっ…私も持ってます…。あの…植杉日和って学生さんの詩が好きで…』
ドキッとする日和。
『…へっ…へぇ』
『…読んでないんですか?』
『あっ…、いや…読んだよ…』
挙動不審な日和だったが、少女はその様子に気付いていなかった。