君の詩が色褪せても
愛里子がわざと尋ねてくることを、日和は分かっていた。


「誰も現れなきゃ、悪いけど病院」


「…病院は…」


「頭とか打ってる可能性だって十分あるんだ。今連れてかないだけでも感謝しろよ」

それだけ言って日和はまた席を立った。


「妖精は信じない?」

淋しそうにしながらも、健気に聞く愛里子。



「確かに愛里子は妖精っぽいよ。顔は可愛し、目はデケーし、声も鳥みたいだし…」


「っぽい?」


「ちっこいし、フワフワだし…服もそれなりだし、人間というより人形みたいだ」

冷蔵庫から缶ビールを取出しながら言い切る日和だった。



「人形…」


そう呟く愛里子の顔からは表情が消え、まるで本当に人形が座っているかのようだった。



「オレ、これから自室で仕事するから、腹減ったら冷蔵庫のモン適当に食って」

「……」


「眠くなったら、隣の客間使っていいから」


「…ひよ…」



愛里子が呼び掛けようとすると同時に、日和の部屋のドアがバタンと大きな音を立てて閉まった。


湧き出る涙が大きな瞳にたまる。


愛里子は窓のカーテンを開けた。

夜の海の景色に自分が重なる。
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