君の詩が色褪せても
少し動揺する日和。


「あの…愛里子、飯は…」


「冷蔵庫の中でしょ。愛里子のことは気にしないでいいよ」

愛里子は優しく笑った。


「そうか…」









9時ちょっと過ぎ、日和は部屋に愛里子を残したままエレベータでB2の駐車場に降りた。


一台の車のライトが点滅する。

日和は急いでその車に駆け寄った。



「わりぃ…」


「珍しいじゃん。遅刻なんて」

日和が助手席に飛び乗ると、律壱が微笑みながらそう言った。


「ちょっと厄介な拾い物しちゃってさ…」

「拾い物?」


「後で相談乗って」


「お…おぉ」


律壱がエンジンをかける。

車内には美しいメロディーが鳴り響いた。


車はマンションの地下から海の見える道路に向かう。


「新曲?」


「ああ、いい曲だろ。運命ドラマの主題歌にしよーかな」


「曲が先かぁ…」

ため息をつく日和。


「普通は曲が先に出来て、後から詞が乗る方がやりやすいんですけど」


「分かってるよ…いつもいつも詞が先でスミマセンね」


「…で、運命の言葉は浮かんだか?」


「……」


律壱が曲のボリュームを下げた。
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