君の詩が色褪せても
「いや…、わざわざありがとう…」
日和の動揺が空気を緊張させ、他の3人に伝染してしまいそうになる。
「あっ…、私帰るね」
空気を切り裂く弥生の弱々しい声。
「仕事?」
わざとらしく聞く律壱。
「そう、仕事」
「忙しい時に突然頼んでごめんね」
2人の会話は芝居のようだった。
日和は弥生にペコリと頭を下げる。
「また何か困ったことがあったら遠慮なく言って。お洋服、沢山あるから今度持ってくるね」
「悪いね、知り合ったばかりなのに…」
律壱が弥生を玄関まで送ろうとする。
「あっ!」
日和が弥生に駆け寄る。
そして彼女の手を取ると、携帯電話をそっと乗せた。
「…あっ…ありがとう」
弥生の目を見て日和は言った。
安心して微笑む弥生。
「愛里子さん、またね」
ずっと不安顔で日和を見ていた愛里子にそう告げると、弥生はゆっくり玄関の戸を閉めて日和の部屋を後にした。
玄関に向かったまま立ちすくむ日和と律壱。
背中に愛里子の切ない視線を感じた。
「…日和?」
問い掛ける愛里子。
日和は振り返えれずにいた。
振り返る為の言葉を頭の中で必死に探していた。