時を越える愛歌
奈美「はぁ、はぁ…」
真っ暗な道を駆け抜ける。
視界に入ってくるのは真っ暗な空間だけで、他のものは何も見えない。
いくら走っても何もなく、何にぶつかるわけでもなく暗闇が続くだけだった。
奈美「っ、助けて…」
立ち止まって呼吸を整え、助けを求める言葉を発しても何も帰ってこない。
あたしの声はだだっ広い暗闇に吸い込まれ、響くことなく消えていった。
助けて、たすけて…
何度叫んでも、何度呼んでも。
声は帰って来なかった。
苦しくなりながらも足を動かし、かすれた声で助けを求め続ける。
“奈美…こっちやで…”
何処からともなく声が聞こえた。
優しく囁くようなその声は、操るようにあたしの名前を呼び続ける。
その声に答えるようにまた走り出す。
するとその前には人らしきものが見えてきた。
それを見つけるなり、あたしはそれに向かって全速力で向かっていく。
そしてその人に飛びつき、きつく抱き締め合っていた。
「奈美…良かった」
奈美「祐介、ずっと逢いたかった…」
祐介「僕もやで、奈美…」
夢だった、今見た光景は。
目を覚ましたあたしの鼓動はドクドクと鳴り響いていて、はぁはぁと荒く呼吸していたのだった。
夢やけど、夢じゃない。
きっと、これは…
奈美「神様はあたしを見捨てなかったんやね…祐介」
涙が溢れ出した。
思い出した記憶が夢とぴったりと一致し、頭の中はあの幸せな祐介との日々でいっぱいだった。
さよならを言ったあの時、もう絶対祐介に出逢えることはないと思った。
一生の終わりを告げようとしていたあの時の自分が、今はこうして生きているのだから。
嬉しくて嬉しくて、仕方なかった。
嬉しさと歓びが混ざり合い、涙へと変換されてあふれ出している。
「祐介、あたしは生きてるよ。ここでこうして…生きてるよ」