時を越える愛歌
そんなことを思いながら動かせる足を止め、静かにゆっくりを歩く。

気付かれないように気付かれないように、ゆっくり通り過ぎようと思った。





祐介「…嘘、やろ…」











辺りはすっかり暗くなり、光はマンションの入り口の電気と電灯の光だけとなった。

夜になればより一層寒さは増し、軽く歯がガタガタ言い出す。


手と手を擦り合わせながら立っていると、隣から足音が聞こえた。





「…嘘、やろ…」





懐かしく感じる声が耳に入り、反射的にあたしは声の主の方に視線を向けた。





奈美「…ゆう、すけ…?」





真っ暗闇の中、微かに見えるその顔は確かにあたしの愛しい人。

びっくりして信じられないように目を大きく見開いた、祐介やった。


お互い動きが止まる。

見つめ合ったまま、ぴくりとも動かない。





祐介「…奈美、なん?」





ゆっくりと祐介はあたしに近付き、しっかりと顔が分かる程になる。

祐介の目は涙で滲み、潤んだ瞳であたしをしっかり捕らえていた。





祐介「奈美、奈美やんなっ…」

奈美「うんっ、奈美やで…?」





きつくきつく、抱き締め合った。


逢えなかったの時間を埋めるように。

お互いを確かめ合うように。

ずっとずっと離れないように。

愛を確かめ合うように…

祐介「奈美、逢いたかった…」

奈美「ごめんな、ごめん…」

祐介「毎日毎日奈美のこと考えてた。僕がほんまに愛したんは、奈美だけやって」

奈美「あたしも祐介に逢いたかった、夢にまで出て来た…ほんまに、逢いたかった」





二人共涙を流し、身体と身体がぴったりくっつくぐらいに抱き合った。

祐介はあたしの頭を自分の胸元に押し付け、静かに涙を流していた。


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