時を越える愛歌
祐介「なんか隆平と仲良さそうやったやん、僕の出るとこなんかないしな」

奈美「ちゃう、それは」

祐介「ごめん、もういっぱいいっぱいやねん…自分のことと奈美のことでいっぱいいっぱいや!」

奈美「ちゃうねん!あたしの話聞いて」


祐介「もうそんな話なんか聞きたくない!」

奈美「祐介!」





精一杯の声で祐介の名前を呼び、混乱する相手を必死で止める。

手をぎゅっと握って、あたしの話を聞いてもらえるように落ち着かせた。



ちゃんと、聞いてよ…





奈美「祐介もあたしも、今までいっぱい傷ついたやん…?」

祐介「…おん」

奈美「あたしずっとくよくよしてて、自分のことを考えては悲劇のヒロイン演じてた」

祐介「…」

奈美「“何であたしだけこんな目に遭わなあかんの”って。本間、最悪や…」

祐介「奈美…」

奈美「自分の気持ちに気付かんフリしてたままのあたしに、隆平くんは勇気をくれてん」

祐介「…じゃあ隆平は」

奈美「うん…あたしの力を引き出してくれたんよ、素直になるっていう、大切なことも教えてくれた…」

祐介「…」





怖くて切なくて、声が震えてきた。

暗闇に飲み込まれそうになりながら必死にもがくあたしは、泳ぐことを忘れた人魚のようで。



でもここで負けたらあかんよね。

自分に勝つことが大事。



そう、一つ壁を乗り越えなあかんねん…
ゆっくりと冷たい空気を吸い込む。

祐介を真っ直ぐを見つめた。





「あたし、は…祐介が好き」


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