時を越える愛歌
持っていたはずのマグカップが、あたしの手をすり抜けた。

透過した、あたしの手の間を…







祐介「ちょ、大丈夫?」

隆平「落としてしもたん?」




奈美「…」





あたしの手、透けてた…?
幸せのその向こうには。

何があるのか分からない。


光なのか、闇なのかも、何も。
どういうこと?
あたし、確かにマグカップ、握ってたよね?





祐介「大丈夫?怪我は?」





確かにちゃんと持ってた。
離さないように、気を付けてた。

きっとあたしの手は…





隆平「マグカップは割れてしもたけど、怪我はないようやな、良かった」

奈美「…」

祐介「…奈美?」





あたしの手をすり抜けて。
これは、夢じゃない。

何で、何でいきなり…


いきなりこんなこと…





祐介「どうしたん、なぁ?」

奈美「…ぁ、何もない。ちょっとびっくりしただけ…ごめんな?」

祐介「…そか、なら良かった!」





視界に入ってきた心配そうな祐介の顔を見ればあたしは意識を取り戻し、"大丈夫"と小さく微笑みかけた。


血は流れていない。
でもあたしの鼓動はけたたましく脈を打っていた。




これは何かの予兆?

それじゃあ、あたしは…
それから頻繁にあたしの身体の異変は現れていた。


少し前までは瞬間的に身体の一部が透過するだけだったのが、最近になっては数分透けたままの時もある。




本当の幽霊になってしまったようで。
今に消えてしまうのかという不安に襲われて。

怖くて怖くて、堪らなかった。


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