時を越える愛歌
あの時ずっと奈美を抱き締めていれば
あのまま2人で居れたのかな…?
奈美が口の動きだけで伝えた“ありがとう”が、僕の頭から消えてくれることはなかった。
これから奈美がどうなってしまうか、嫌な予想が胸を過ぎったから。
胸騒ぎがしたあの時、奈美はぎゅっと僕を抱き締めたね。
めっちゃ温かかったで?
めっちゃめっちゃ、温かかったのに…
今の僕の身体は夜風に吹かれ、冷えきっている。
一緒に見た夕日が、奈美と一緒に沈んでいったよ。
家には、帰れない。
僕の予想が当たっているなら。
外れてることを心から望みたい。
けど、僕の頭には嫌な予想しか浮かばなかった。
「奈美は今、何処にいるの?」
小さく呟いた僕の声を風がどこかへ運んでいった。
動いてくれない足を無理矢理動かし、家へと戻って行く。
祐介「ただいま…」