天使のキス
プロローグ
吐息が白く、ふわりと現れ、しばらくして消える。
マフラーで顔の4分の1ほど隠すと、少し、暖かく感じた。


だれかが泣いているような気がして、心当たりのある場所に足を伸ばす。
ひとつクシャミをして、走り出す。着いたのは、公園。


「結衣!」


ブランコに座って、顔を真っ赤にしている女の子。
それが中野結衣だった。


親同士が仲良しで、産まれた頃からずっと一緒。
だからなのか…結衣が泣いてると、すぐに分かってしまう。


「勇…」


俺の顔を見て、結衣は何かの糸が切れたのか、我慢していたはずの瞳から涙が溢れ出す。
ちなみに、勇…木本勇とは、俺の事。


「マーくん…。ひっこししちゃうって…」


結衣の言う、“マーくん”とは、桜井マサキの事。
同じく親同士が仲良しで、産まれた頃からずっと一緒。


今まで兄弟みたいに育ってきていたせいか、結衣よりも先に聞かされていた筈の俺には、まだ実感が無かった。


「泣くなよ。大きくなったらもどってくるって言ってたじゃんか」


俺は、ハンカチもちり紙も持っていなかったので、服の袖で結衣の涙をすくう。
結衣はしゃっくりが出たように、肩を揺らして泣いている。


「それまで、おれがそばにいるからな。ずっと、いっしょにいるからな」


結衣はキョトンとして、俺の顔を見た。驚く程の事は言っていない筈なのに。


「おまえを泣かすやつは、おれがゆるさないから」


結衣の肩をしっかり掴んで、言った。結衣は次の瞬間、笑顔になった。
涙でグシャグシャになった顔だったけど、とても可愛いと思った。
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