天使のキス
「あんたも、長いね?もう10年でしょ?片思い」


「うっせ。」


からかう圭子のオデコに拳を擦り付け、圭子は『痛い痛い』と、暴れる。図星なので、否定は出来ない。しようとしても、態度に出てしまう。


「ほんと、不器用だよねー。他の男に持ってかれても、知らないぞー」


オデコを押さえた圭子が笑う。何もかも見透かされている気が、する。


「ほっとけ。」


そう言ったあと、ため息をついて、自分の席に向かう。
…まったく、好き勝手言いやがって。


「はい、お喋りはそこまで。HRを始めます」


担任の幸田和希。
手をパンパンと叩いて教卓に立つ。


24歳。独身。爽やかな顔立ちに、長身。
少しアンバランスに思うかもしれないけど、それがツボだと言う女子は多い。


まったく、ただ若い先生ってだけで、女子は黄色い声を出すんだからな。


ま、女の先生だったら、俺も同じ様な感じになってるかもな。と、苦笑いをする。


「今日は、始めに紙を配るので、後ろまで回して下さい」


幸田が配った紙が、俺の所まで回ってきた。
後ろの奴の分を渡すと、その紙に目を通す。



“クリスマスパーティーのお知らせ”


太字のフォントで一番大きく表示された文字を読む。
目を右に左に動かしていく。内容は、理事長の粋な計らいでホテルの会場をひとつ貸し切って豪勢なクリスマスパーティーをするとの事。


ドレス、スーツなどの正装で来ること、など。注意事項まで親切に書かれている。


「参加する人は、先生まで言いに来て下さい。」


幸田がニコリと微笑むと、クラスの女子が黄色い悲鳴を上げる。


…なんだっていうんだ。


「勇は…行くの?」


隣の席の、結衣はそう言ってきた。


「もちろん!なんか楽しそうだろ?」


「勇、お祭り事好きだもんね」


そう言って笑う結衣が可愛…って、俺!コラ!


自分の思考をストップさせる為、自分の頭を叩く。
結衣は頭にハテナマークを飛ばしたような顔をして、ただこちらを見ていた。
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