記憶のない海
意識は脳の中でハッキリしていた。

あたしは『僕』の中に居るんだけど

映画を観ているような感覚もある。

『あたし』の身体があるのはわかるのに

指先すら動かせない。

──でも怖い!

【どうしてお父ちゃんは助けてくれなかったの!?】

『僕』がその瞬間考えていた記憶ですら、魂には記録されていて

鮮明に思い出せるの!

───見たくない!

体験したくない!

『僕』が死ぬ瞬間を思い出したくない───!








思いきり手に力を入れた途端

まるで金縛りにでもあっていたような身体は動き

『僕』から『あたし』へと意識は戻った。


あたしは飛び起きた。

夢じゃなかった…
意識はあんなにハッキリしていた。

眠って夢を見たのとは違う…。

だけど、まだ心臓も
この身体に血を運ぶ血管もドキドキして


なかなかおさまらなかった。


───これが前世の記憶。

想像していたのよりも、もっとリアルで…

だけど自分の魂が知っていて、違和感なく信じられる。



これがあたしの
ルーツの欠片。
< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop