宛て名のないX'mas
「裕美ちゃん」
(はぁ、やっぱり素敵…)
「おーい、裕美ちゃん?」
「はっ、あ、こんにちは!(あたしの名前、ちゃんと覚えてくれてるなんて…感動…)」
「友達と待ち合わせしてたんだけど、俺、早く来すぎちゃって。そん時、裕美ちゃん見つけたから」
「そうだったんですか」
孝志は、さっきまで里奈が座っていた席に座り、辺りを見回した。
「あれ、さっきまで友達と一緒じゃなかった?」
「え!あ、あーえっとですね。えー、何か急に急用ができたって帰っちゃって!それで、その!」
テンぱる裕美を見て、孝志は声を出して笑い出した。
「な、なんですか?」と裕美は口をとがらせて言った。
「そんな慌てなくていいのに」
「すっすいません」
「あはは、何で謝んの?」
孝志は、肘をついて、口元くらいの高さで手を組んで、裕美を優しい笑顔で見てくる。
綺麗な指。色っぽい瞳。
裕美の心臓は痛いくらいに速く、どこまでも高鳴った。
それはもう、まともに目を合わせられないほどに。
「可愛いね、裕美ちゃん」
「えっ?」
(今、あたしのこと、可愛いって。可愛いって言った?)
「そんな、冗談やめてくださいよ」
「いや、マジで。この前の引退試合も観に来てくれてたろ?」
(うそ、気づいててくれたんだ…)