宛て名のないX'mas
時間はまだ二時半くらい。
どうせ家に帰ってもなぁと思い、裕美は本屋に立ち寄り、ファッション雑誌に手を伸ばした。
その中のクリスマス特集に目をとめた。
(何、何?冬ならではの恋を大研究!)
「へぇ~…」
《その一、冬の恋は身近な所から始まりやすい。冬は心が寂しくなるから、一番近くにいる人が急に恋しくなったりするものなのです》
「身近…」
ボヤ~ン。裕美の頭には、亮太の顔が浮かんだ。
(ハッ、何考えてんの、あたし!)
さっき里奈が変なこと言うから…、と裕美は首をふった。
《その二、ベタなアプローチが効果的!手編みの手袋や、手作りお菓子などが好印象!》
どうやら、手編みのマフラーは好印象らしい。
やっぱり里奈は恋愛マスターかも、と裕美は大きく頷く。
しかし。
ボヤ~ン。なぜか裕美の頭には、手編みのマフラーをしてピースしてる亮太が!
(だぁもう!いちいち出てこないでよ!あたしが好きなのは、孝志先輩なんだから!)
裕美は、店内に暖房がききすぎているのか、変なことを考えたからなのか、顔が火照ってきた。
調子が狂ってしまい、雑誌を閉じ、店を出た。
ショッピングモールの前で、サンタクロースの格好をしたお姉さんがチラシを配っている。
足寒そう。
よくやるなぁ。
自給高くなきゃやってらんないよね、なんて裕美は思い、チラシをわざわざ受け取ってみた。
街を歩く人たちは、恋人同士ばっかり。
腕を組んだり、手を繋いだり、肩を抱いたり。誰が見ても幸せそうだ。
裕美は、そんな街中を鞄を大きく振り、考えごとをしながら歩いた。