宛て名のないX'mas
《着信・三田亮太》
「…計ったようなタイミング…。はい、もしもし?」
『あ、裕美?俺俺!亮太!』
「言わなくても分かるわよ。で、何?」
『今日来れねぇ?』
「はっ?」
『だーかーら、取引したろ?課題のやつ!今部活終わって帰るとこなんだけど』
後ろから、『おい誰だよ?亮太~』『うるせぇな』などと、サッカー部の連中の声が聞こえてくる。
裕美は、「めんどくさい」と言いかけて、ハッと今日の孝志の笑顔を思い出した。
そんな孝志との架け橋をくれた亮太との取引を断るわけにもいかず…。
「はぁ、分かった。アンタん家行けばいい?」
『おう。わりぃな!じゃ、待ってる』
(待ってる、か)
孝志と同じセリフを言われて、また調子が狂う裕美であった。
―…
「こんにちはー」
「あら裕美ちゃん。いらっしゃい」
三田酒屋店に入ると、亮太の母親の美登利が笑顔で出迎えた。
美登利は少しふくよかで、日本のお母ちゃんって感じの人だ。
裕美のことは娘のように可愛がってくれている。
「勉強教えてくれるんだって?ありがとね。まったく、あのバカ息子。ごめんね、裕美ちゃん、忙しいのにねぇ」
裕美は「いえいえ、全然!」と笑い、「びしびし教えますから」とピースしてから、店の奥の階段をのぼった。